持続性知覚性姿勢誘発めまい (PPPD)

   このページでは、当院のめまい外来でよく見られるPPPDの原因と治療方法について、医学的な知識・根拠および研究結果に基づいて説明します。PPPDは英語で「Persistent Postural-Perceptual Dizziness」と言います。近年発見されためまい疾患であり、2018年にWHO国際疾病分類に新たに収載されました。

めまい疾患の約20%を占める頻度の高い疾患であり、慢性めまいの原因疾患としては最も多いとされています。

女性に多く、発症のピークは40歳代に見られます。

発症からPPPDと診断されるまでに平均で4.5年の期間を要します。

比較的若年層、特に就労期に高い発症率を示し、日常生活にも支障をきたすことから、社会的にも重要な慢性疾患です。

PPPDは自然に軽快することは少なく、無治療の場合、約3/4の患者さんは不安症やうつ病を続発し、症状が長期にわたって持続することがあります。

  PPPDの診断とめまい・ふらつきの特徴
  身体の平衡機能
  PPPDの仕組み
  原因
  治療

PPPD系のめまい・ふらつきで悩んでいる方-横浜市港北区の大倉山耳鼻科病院の耳鳴り-めまい外来

  PPPDの診断とめまい症状の特徴

 PPPDの診断のためには症状や病歴に関する詳細な問診が重要であります。
 現時点では特異的な平衡機能検査所見,脳画像検査所は報告されていない。しかし、検査によって他の疾患は除外できます。

 PPPD系めまい・ふらつきの特徴は以下の通りです:

 1. 浮動感、不安定感、または非回転性のめまいのうち、1つ以上の症状が見られる。

 2. 上記の症状が3か月以上ほぼ毎日続く。

 3. めまい症状を悪化させる3つの因子があります:

    a) 立ったり歩いたりすること。
    b)急な動き:体を動かしたり、動かされたりすること(エスカレーター、電車、バスへの乗車など)。
    c)複雑な模様や激しい動きのある映像を見ること(大型店舗の陳列棚、細かい書字、映画、スクロール画面、ドローン撮像動画など)。

 これらの因子により、めまいやふらつきが増悪することがあります。

 PPPD専用問診表

 PPPD診断のために新潟大学耳鼻咽喉科では専用問診票を作成されました。

 次のようなことではあなたのめまい症状は悪化しますか?

 Q1 .急に立ち上がる,急に振り向くなど,急な動作をする
 Q2 .スーパーやホームセンターなどの陳列棚を見る
 Q3 .普段通りに,自分のペースで歩く
 Q4 .TVや映画などで,激しい動きのある画像を見る
 Q5 .車,バス,電車などの乗り物に乗る
 Q6 .丸椅子など,背もたれやひじ掛けのない椅子に座った状態を保つ
 Q7 .何も支えなく,立ったままの状態を保つ
 Q8 .パソコンやスマートフォンのスクロール画面を見る
 Q9 .家事など,軽い運動や体を動かす作業をする
 Q10.本や新聞などの細かい文字を見る
 Q11.比較的早い速度で,大股で歩く

各質問を0~6点として7段階で評価し、満点は72点になります。
計数は26点以上になるとPPPDの可能性は70%以上になります。

  身体の平衡機能

身体の平衡を維持するためには、以下の3つの感覚情報が利用されます:

1. 視覚(眼): 眼の運動に関する情報

2. 体性感覚情報(皮膚、筋肉、関節): 手・足・体幹の運動に関する情報

3. 前庭感覚情報(内耳): 頭・首の運動に関する情報

これらの情報が脳に入力され、そこで統合・処理されます。その結果、空間内での自己の位置や方向、姿勢を正確に認知することができます。この情報を基に、脳は再び身体の筋肉、関節、眼に指令を出し、それぞれの運動を調整しながら平衡を維持します。

  PPPDの仕組み:

PPPDの発症に先立って、BPPVやメニエール病などの急性めまいが見られることがあります。内耳や三半規管の疾患によって前庭感覚が障害されると、急性めまいが発症します。通常、時間とともに前庭機能が回復するか、脳レベルでの代償(前庭代償)によって症状が軽快します。この過程で、障害された前庭機能を補うために視覚や体性感覚に一時的に依存し、体平衡を保ちます。しかし、PPPDの場合、この依存状態が持続し、脳が視覚や体性感覚の情報に過敏になります。その結果、通常では反応しない視覚情報に過剰反応し、ふらつきや不安定感を感じることがあります。また、脳の処理と代償機能がうまくいかず、めまい症状が慢性化します。

脳のfMRIを用いた研究では、空間認識の形成や感覚入力の統合、恐怖刺激への反応に関与する領域の活性が健常者と比べて低下していることが示されています。

  PPPDの原因

PPPDの多くは、前庭疾患、内科疾患、または精神疾患が先行して発症します。

  前庭疾患:BPPV、メニエール病、前庭神経炎、めまいを伴う突発性難聴

 ◉ 内科疾患:起立性調節障害

  精神疾患:うつ病、不安神経症

これらの疾患が十分に回復せず、PPPDに移行することがあります。また、ストレスや疲労、不安がこれらの疾患の前後に存在する場合、PPPDのリスクが増大することがあります。

  PPPDの治療

PPPDは自然に軽快することは少なく、無治療の場合、約3/4の患者が不安症やうつ病を続発します。先行する急性めまい疾患が軽快した後も、長期にわたって症状が持続することがあります(1)。したがって、めまい症とはっきり鑑別した上で、適切な治療を行う必要があります。
めまいの重症度によって、以下の治療方法が考えられます:
1.
生活習慣の改善:
a)
睡眠不足に注意:睡眠不足は、平衡機能に役立つ脳の処理機能を悪化させ、ストレスや不安を増悪させることがあります。十分な睡眠がないと、前庭系や神経系の機能が低下し、バランス感覚や体の位置感覚に影響を与えます。
b)
睡眠衛生の改善:睡眠時間の確保とともに、睡眠環境を改善することが重要です。具体的には、就寝1時間前の電子機器使用を控える、快適な寝室環境を整える、お酒やカフェイン、重い食事を避けることが推奨されます。
c)
スクリーンタイムの制限YouTubeやゲームなどの動画を長時間見続けることで、視覚情報が過剰に刺激され、目の疲れや視覚的不快感が引き起こされることがあります。仕事以外のスクリーンタイムを制限することは、PPPDの回復において重要です。

2. 有酸素運動: 運動は以下のような効果があります。

体の代謝がアップし、血流が改善される。
疲労感が軽減されることで、寝付きが良くなる。
ストレスを解消することで、めまいの改善に役立つ。

Q. 適切な運動とその程度は?

A. 有酸素運動ではより高い効果を望みます:ウォーキングやジョギング、エアロビクス、サイクリング、水泳など。

運動の習慣がない方にはまず無理のないペースで歩く事でも十分

運動の習慣がある方にはウォーキングやランニングがおすすめ

時間・頻度は1日20分~1時間程度、週に4~6

.前庭リハビリテーション:さまざまな方法があります。

4.薬物治療:漢方薬、安定剤、SSRI系の薬剤などがあります。
5.認知行動療法:主に心療内科で行います。

それぞれの治療法は作用機序が異なるため、重症例ではこれらを組み合わせて行うことが推奨されます。

  参考:

1) Madrigal J, et al: Persistent Challenges: A Comprehensive Review of Persistent Postural-Perceptual Dizziness, Controversies, and Clinical Complexities. Cureus. 2024 May 23;16(5): e60911.
2) Knight B, et al: Persistent Postural-Perceptual Dizziness (PPPD). 2023 Apr 15. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan–.
3) Trinidade A, et al: Predictors of persistent postural-perceptual dizziness (PPPD) and similar forms of chronic dizziness precipitated by peripheral vestibular disorders: a systematic review. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2023 Nov;94(11):904-915. 

地図-横浜市港北区の耳鼻咽喉クリニック
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